長谷部浩ホームページ
2016年12月2日金曜日
【閑話休題58】偶然ではなく、必然のように。すみだトリフォニーホールのコンサートを終えて。
この十一月二十九日、今年の六月頃、本格的に始動した『尾上菊之助 歌舞伎とシェイクスピアの音楽』が、無事終了した。
今回は墨田区が、すみだ北斎美術館を二十二日にオープンしたこともあり、その関連企画として、歌舞伎俳優と新日本フィルハーモニーが共演する場が成立した。
今回、私は、企画監修として関わったが、歌舞伎ファン、クラッシックファンどちらにも楽しめるようにしたかった。どちらも退屈させないための手立てを考えるところからはじまった。
もっとも菊之助さんが、この十一月末にスケジュールがあくかどうかが問題だった。もし、歌舞伎座や国立劇場の出演であれば、月末ならば大丈夫なはずだが、なにしろ南座顔見世の月でもある。十一月の末日には、顔見世の幕が開くので、決定は六月までのびた。
七月にはプロコフィエフのバレエ組曲「ロメオとジュリエット」から、第二部の指揮をするマエストロ角田鋼亮さんが、どの曲を抜粋するかを決めた。それを受けて、坪内逍遙訳をベースに八月末までに上演台本をは書き上げた。十一月のはじめまでは、それぞれが構想をゆっくり練る時間となった。
舞台の直前まで、細かい手直しが続いた。一番大きな変化は、舞台稽古が終わって、翌日、一時頃に『京鹿子娘道成寺』の「鞠唄」「恋の手習」では、地方が黒ではなく、桜の裃を着けるように急遽変更になったところだ。その前に、菊五郎劇団音楽部の巳之助さんと長之介さんは、「弁天小僧」に黒の着付けで出ているので、着替えの時間を作らなけらばならなくなった。そのつなぎの台詞を書き終えたのは午後二時。こうして刻々と上演台本は変わり、周囲のスタッフに対応をお願いしなければならない。たとえば、着替えのために、下手袖に畳敷きの着替え仮スペースを設営するなど…。いずれにしても第一部に関しては、全体を指揮していく菊之助さんあってのことでた。沈着冷静、しかも舞台がよくなることを前向きに、常に考えている姿勢は見事だった。
本番が終わった。ほっとしたのか、翌日熱が出て倒れた。さらにその翌日、すみだトリフォニーホールの担当Mさんにメールで連絡を取った。
「偶然といいますか、ここまでくると当然のように、わたしも昨日は熱を出して一日寝込んでおりました(笑)お互い大事にいたしましょう」
返事が返ってきて、思わず私も吹きだした。