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2018年3月12日月曜日

【劇評103】菊之助初役、江戸の粋を生きる

 歌舞伎劇評 平成三十年三月 国立劇場

なんとも清新な新三を観た。
菊之助初役の『髪結新三』は、菊五郎監修による。父のもとで勝奴を勤めた経験が生きて、仕事の細部に狂いがない。
それほど新三は、世話物でありながら、やらなければならぬ型が仔細に決まっている。まずは白子屋の見世先、忠七(梅枝)の髪をなでつけながら、お熊(梅丸)を連れて逃げよと説きつける件り。へりくだって、お為ごかしをいいながら、悪党の片鱗をのぞかせる。
永代橋の場では、忠七を痛めつける件りが梅枝の好演もあって、豹変振りが面白い。「忠七さん、おめぇさん内に来ると言いなさるが、何の用があって来なさるんだ」から正体を現していくが、段取り芝居にならずに、刻々と凄みをましていく。
新三内の場で、弥太五郎源七(團蔵)とのやりとりも一触即発の緊張感がある。新三はこれから売り出し。顔役の前できっさき鋭く迫っていく度胸が見えた。
さらに元の新三内の場で、家主(亀蔵)にやりこめられる件りも愛嬌がにじむ。お熊を帰すくだりでは、柱の脇であごをなでるあたりも堂にいっている。舞台中央で見送るあたりにゲスな色気が出ればいいが、これは資質というよりは、年季の問題だろう。
脇を固める役者たちも初役が多いが、手堅く菊之助を支えている。家主女房の橘太郎、車力善八の菊市郎、肴売の咲十郎もよい味を出している。さすがに菊五郎劇団の味がしみている。音羽屋の御曹司として、世話物の立役に挑んでいく入口で、相応の結果がでた。中村屋の系統の上州無宿としての新三ではなく、江戸の粋を体現した存在としての新三として狂いがない。
勝奴は萬太郎。抜け目ないところが見えるが、江戸の粋を漂わせるには時間がかかる。菊之助の長男、寺嶋和史は、初目見得からずいぶん成長して頼もしい。
鴈治郎の若狭之助がこなれた芝居を見せるのが『増補忠臣蔵』。ここでも加古川本蔵の亀蔵、三千歳姫の梅枝がしっかりと舞台を支えている。二十七日まで。