またしても矢野誠一さんの話題なのだが、新刊をお送りするとかならず素敵なお礼状をくださる。
このお礼状については、また改めて書きたいのだが、どうも、数多い著作を持つ年配の筆者の方々に限って、
きちんと中身のある葉書をくださるのがありがたい。
たとえば、水落潔さんからいただく葉書は、含蓄が多くいつも学ばせて頂いている。
小田島雄二先生からの葉書は、軽妙な筆致で一読しただけで楽しい気持になる。
矢野誠一さんからの葉書は、もちろん中身がすばらしいのはもちろんだけれど、
印の使い方が独特で、見ていて楽しい。
たとえば住所印も、全体を罫で囲っているのではなく、天地があいている。
書名の部分は空白になっており、手書きで「矢野誠一」との署名がある。
この署名が黒ではなく、グレーなのが気になる。
どんな筆記用具をお使いなのですか、と歌舞伎座の大間で訪ねたら、
「ああ、あれ、香港にいったときに掘ってもらった印なんですよ。
筆記体で僕が書いたとおりに、掘ってもらった」
との答えが返ってきた。
聞けば中二日、三日で掘ってくれるはんこ屋があるそうで、
なかには、その場でという店もあるが、どうかな、とのことでした。
「印だったんですか、なにか特別なスタンプ台でも?」
「ふつうの黒だけど使い込んで変えていないからグレーなんです。無精だから」
住所印の右上には「卯月」との遊印が。
これは毎月変わるのだから、さぞ大変だろうと思ったら、
「せんの歌舞伎座の売店で売っていたよ。どこの文房具店でもあるのでは」
とのこと。
探したらいまの歌舞伎座にはありませんでした。
ことほど左様に、文人趣味に思える印の世界も、
矢野大人にかかれば、自由自在な境地。
のびのび遊べるようになりたいなあ。