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2017年12月8日金曜日

【劇評93】知性と愛嬌。中車の『らくだ』

 歌舞伎劇評 平成二十九年十二月 歌舞伎座第二部

 慌ただしい師走の一日を費やして、歌舞伎を観る幸福。三部制には賛否あるのは承知しているが、なにかと気ぜわしい十二月には、ふさわしい興業のかたちかと思う。
 第二部は、中車の久六による『らくだ』。もやは手に入った(片岡)亀蔵の宇之助の快演もあって、観客席を沸かせる。第一部の『実盛物語』とは打ってかわって、上方の怖い小悪党を演じる愛之助の熊五郎も、笑いを狙いすぎず、かといって突っ込むところは手加減せず上出来。橘太郎、松之助の家主夫婦は、極端にデフォルメして観客を浚っていく役柄。中車の久六は、目に知性が宿っているために怜悧な屑屋になってしまっている。この人に巧まざる愛嬌が備わってくれば無敵なのだが。
 続いて『蘭平物狂』。二代目松緑ゆかりの演目を当代が全力で演じている。前半後半を通して、蘭平が子繁蔵(尾上左近)を思う気持ちがあふれてこその立廻りである。親子で蘭平、繁蔵を演じるよさはそのあたりにあるのだろう。新悟は女房おりく実は音人妻明石で女方としての成長が著しい。与茂作実は大江音人の(坂東)亀蔵も襲名以来、ひとつひとつの舞台を大切にしている、匂い立つ行平奥方の水無瀬は児太郎。行平は愛之助。愛之助は第一部から大活躍で、人柄のよさが伝わってくる。二十六日まで。