2019年6月13日木曜日

【劇評141】三谷幸喜の新作歌舞伎はいかに。

歌舞伎劇評 歌舞伎座夜の部 

夜の部は、みなもと太郎原作、三谷幸喜作・演出の『三谷かぶき 月光露針路日本(つきあかり めざす ふるさと』。三谷には、『決闘! 高田馬場』(PARCO劇場)の名作がある。ところが意外なことに、歌舞伎座では初の作・演出。幸四郎と猿之助の技藝を見せる通し狂言となった。
ロシアの大地を彷徨い、帰郷の一念を通す大黒屋光太夫(幸四郎)と個性豊かの水主たちの群像劇となった。猿之助、愛之助、男女蔵、宗之助、廣太郎、種之助、染五郎、松之助、弘太郎、鶴松、幸蔵、千次郎。それぞれのおもしろみを書き分けるのは、三谷ならではの手腕だろう。なかでも、男女蔵を茫洋とした性格で生かしたのは出色。
ただし、実話からとった原作に忠実なあまり、日本からレニングラードへ過酷な旅が続くが展開に乏しい。幸四郎、猿之助による連作『弥次喜多』の三谷版となった。高麗蔵の怪演、八嶋智人の達者。彌十郎の実直。
教授風の松也を幕開きと結尾に出すが、この芝居をメタシアターにする意味がわからない。船親司三五郎とポチョムキンの二役を白鸚が勤める。歌舞伎だけではなく、ストレートプレイやミュージカルでも鍛えてきた柄の大きさ、貫禄が舞台を圧した。二十五日まで。