昨日、金曜日に岩波書店から見本本が出ますとの知らせがあった。
この間、単行本から文庫化を進めていた『坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ』『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』の二冊が、十六日の発売を前にして、見本が整ったという。私は都合があったので自宅に郵送してもらうことにしたが、単行本のときに尽力してくださった編集者の中嶋さんが、三津五郎さんの事務所に連絡を取って、届けに伺うことになった。巳之助さんは歌舞伎座に出勤しているので不在だったが、ご仏前に案内され、できたての二冊をお供えしてきたと聞いた。
今、この二冊を手に取ってみると、単行本の装幀をそのまま生かしている。写真も三津五郎さんがご自分で選んだものを踏襲している。印刷、造本もよい出来である。もし、ご健在だったら、きっとよろこんでくださると思う。
書籍の奥付には、著作権者のクレジットが掲載される。校了のときに気がついたのだが、今回の岩波現代文庫版では、「坂東巳之助、長谷部浩 2015」となっている。ふたりのお姉様も賛成して、巳之助さんが著作権継承者と定まったと聞いた。当然といえば、当然のクレジットだが、これまで無意識に避けてきた三津五郎さんの逝去が、急に現実になったかのように迫ってきた。
悲しんでばかりはいられない。巳之助さんは、三津五郎さんの急逝にもかかわらず、それ以来、芝居を休むことなく、毎月歌舞伎に出勤している。
私も歌舞伎についての次の著作が待っている。迷いを振り切って、仕事を重ねたいと思う。それが、歌舞伎の未来を案じていた三津五郎さんへの供養になると信じている。